パブリックコメント(消費者契約法の見直しについて)に意見を提出しました。
当弁護団では、パブリックコメント「消費者契約法の見直しに関する御意見募集について」(案件番号235030029)に対し、以下のとおり意見を提出いたしました。
【当弁護団の意見】
当弁護団は、規定案には賛成するものですが、民法の成年年齢の引下げとの関係、高齢者被害の現状に鑑み、以下のとおり意見を述べます。
第1 意見の趣旨
1 消費者の知識、経験、判断力が十分でないことにつけ込んで、当該消費者に不要または不急な契約や不適合な契約をさせた場合には、当該契約を取り消し得るものとすべきである。
2 消費者契約法の取消しの効果については、契約の相手方に「やり得」を認めることがないように、不当利得の返還義務を当該消費者に現実に残っている利益の限度に限定すべきである。
第2 意見の理由
1 当弁護団について
当弁護団は、東京三弁護士会に所属する弁護士で構成され、与信問題に関係する事件を被害者側で扱っている弁護団である。平成17年に過剰与信被害対策弁護団として発足し、過剰与信規制に取り組んでいたが、平成20年の割賦販売法改正後、現在の名称に変更した。
当弁護団では、これまで、アクトジャパン事件(キャッチセールス・モデル商法・恋人商法に該当する。)、エレメント事件(絵画レンタル事件:配当利益誘引取引であり、いわゆる預託商法に該当する。)など、数多くの若者の消費者被害事件を扱ってきた。最近では、主に20代の女性が被害に遭ったスカウト詐欺事件(契約当時の年齢を把握している196名のうち,22歳までに被害に遭ったのは123名)を扱ってきた。
また、悪質なサクラサイト被害相談も受けているが、この被害者の中には、高齢者や精神的な病を持った人は少なくなく、聴覚障害者もいる。
2 消費者契約において若年者、高齢者、障害者などのいわゆる一般的な消費者に比して知識・経験・判断力等が不十分な者を消費者被害から保護すべきであること
(1)若年者について
消費者契約は、事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に着目して、消費者の利益の擁護のために制定された法律であるが、消費者といっても若年者であれば、平均的な消費者と違い、社会経験や知識に乏しく、それ故に判断力は不十分であって、資力も乏しい。
若年者の消費者被害は、このような若年であるが故の知識・経験の不足、それ故に判断力が不十分であることにつけ込まれることが原因となり、不要、不急な契約や当該若年者に不適合な契約をさせられることによって生じている。
とりわけ、18歳、19歳の者が20歳以上の者より知識・経験が不足していることは明らかであるから、成年年齢を18歳に引き下げるのであれば、より一層、若年者を消費者被害から守る必要性が高い。
したがって、若年者が知識・経験、判断力の不足につけ込まれ、当該若年者に不要、不急、不適合な契約をさせられた場合に、当該契約を取り消し得るものとすべきある。
(2)高齢者、障害者について
消費者契約の適用を若年者に限定することは不適当である。高齢者については理解力や判断力の低下がみられるし、社会との接点が少なくなることによる知識や情報の不足もみられ、これらの状況につけ込まれ、消費者被害に遭っている。また、障害者についても、障害の内容にもよるが、知識、経験、情報、判断力の不足などから、これらの状況につけ込まれ、消費者被害に遭っている。
したがって、高齢者や障害者についても、その知識・経験、判断力等の不足につけ込まれ、当該消費者に不要、不急、不適合な契約をさせられた場合には、当該契約を取り消し得るものとすべきある。
(3)まとめ
成年年齢の引下げが議論されていること、高齢者の被害状況は周知の事実であり今後さらに高齢化が進むことなどからは、消費者の知識、経験、判断力などの不足につけ込み、当該消費者に不適合な契約の勧誘がおこなわれた場合における消費者保護は、まさに喫緊の課題であるから、速やかに、このような勧誘による契約を、消費者契約法において、取り消し得るのものとすべきである。
3 取消しの効果について
消費者契約法の取消しは、事業者に責められるべき点があることにより認められるものであるから、取り消し得べき契約を締結させたことで、事業者が利益を得ることを認めるべきではない。それは、事業者にやり得を認めることとなり、不正な行為を止める効果が乏しいからである。
したがって、取消しまでの間に消費者が利益を得たとしても、それが、無形のものであれば、金銭的評価をして返還を認めるなどという解釈は取るべきではない。
クレジット・リース害対策弁護団
団長 弁護士 瀬戸和宏
(平成29年9月25日掲載)