投資用マンション被害

目次

被害の説明

投資用マンション被害とは

概要

 「投資用マンション被害」とは、マンションを購入すれば家賃収入や売却益等を得られるなどとして、「投資用」として購入するように勧誘され、その結果、経済的損害を被ることをいいます。なお、当弁護団では、購入したものが「マンション」の場合だけでなく「土地」や「1棟の建物」を「投資用」として購入した場合も、被害案件として扱っています。

 当弁護団では、2012年(平成24年)から、投資用マンション被害の救済に取り組んでいます。

 投資用マンション被害に関する近年の注意喚起情報としては、以下のものが挙げられます。

勧誘の端緒

  勧誘を受ける端緒としては、①自宅や職場への訪問・電話、②街頭でアンケートや名刺交換を頼まれたことを契機にした勧誘、③婚活サイト・合コン等男女の出会いの場での勧誘(いわゆるデート商法的勧誘)が多いです。

問題事例1(詐欺が疑われる事案)

 マンションを購入する際に、「サブリース契約を締結するので毎月の賃料が保証されるので、安心です」などと告げられることがあります。例えば、3000万円のマンションを購入する際に毎月のローン額は15万円かかるが、サブリース契約を締結することにより毎月15万円が入ってくるので、毎月の負担額は0円でマンションを購入できるなどと言われるわけです。ところが、購入後、数ヶ月で、サブリース契約に基づく賃料の支払が止まってしまい、調査してみると、実際には10万円程度でしか貸せないことが判明したりします。
 同様に、「土地上にアパートを建築すれば毎月ローンを大幅に上回る賃料が得られる」、「サブリース契約で賃料保障もするので大丈夫」などと勧誘される事例があります。ところが、ローン契約を締結して建築代金を支払った後、しばらくすると、施工業者と連絡が取れなくなり、また、サブリース契約に基づく賃料の支払も止まってしまいます。このような場合に、土地がいくらで売れるかを調べてみると、購入価格の3分の1程度でしか売却できないことが判明したりします。
 これらは、そもそも、勧誘時から詐欺の意図があったと疑われる事例といえます。

 問題事例2(勧誘態様に問題がある事案)

 勧誘が、強引であったり、強迫を伴っていたり、長時間や夜間に及んでいたりするなど勧誘態様自体に問題がある場合がまず挙げられます。また、婚活サイト等で出会った異性から、マンションの勧誘の目的を告げられないまま、次第にマンション投資に勧誘され、契約を締結してしまうケースもあります。

問題事例3(説明が不十分な事案)

 不動産投資のメリットが強調される一方で、不動産投資に伴う支出(コスト)とリスクが十分に説明されない事例が多いです。
 そして、これらの勧誘の結果、マンションを購入してみると、購入価格の6割から8割程度の査定額しかつかず、多額のオーバーローンを抱える被害者が多数生じています。

法律的な説明

 クーリング・オフや手付解除、もしくは、不動産購入契約の無効・取消を主張することができる場合もありますが、勧誘が違法であるとして、勧誘担当従業員の不法行為(民法709条))や当該従業員を雇用している会社の使用者責任(民法715条1項)を主張することが多いです。
 例えば、上記の問題事例1では詐欺を理由に、上記の問題事例2では勧誘態様に問題があること自体を理由に、勧誘に違法性が認められうるところです。
 また、上記の問題事例3では、説明義務違反を理由に勧誘に違法性が認められうるところです。

解決方法

 勧誘に違法性等があり被害救済の必要がある場合には、勧誘・販売業者に対して内容証明郵便で、上記2の法律構成のうち事案に即して主張できるものを選択して請求します。その結果、勧誘・販売業者から返答が来て、売買代金額、残ローン金額、又は、それを若干下回る金額等で買戻しが行われ解決する事例も多いです。また、買戻しは行わないが損害の全部又は一部を賠償する旨の返答が来て解決する事例もあります。
 また、交渉での解決が難しい場合には、宅地建物取引業保証協会に対する苦情解決の申し出(宅建業法64条の5第1項)と弁済業務保証金の還付のための認証の申し出(宅建業法64条の8第2項)等を行う場合もあります。
 これらの手段で解決できない場合には、民事訴訟の提起により解決を図ることを検討することになります。

裁判例

 これまでに当弁護団で獲得した裁判例としては以下のものがあります。

婚活サイト利用事案について

  1. 概要
     平成20年頃から平成26年頃にかけて、婚活サイト等で知り合った異性から、デートを重ねる中で言葉巧みに投資用マンションを勧誘され購入してしまった被害者が多数いました。そして、いずれの被害事例に関しても、婚活サイトに登録する者(勧誘者)が所属する会社は宅地建物取引業者ではなく、当該会社とは別の宅地建物取引業者において、売買契約を締結させられていました。
     そこで、当弁護団では、2つの個別訴訟と、3つの集団訴訟を提起しました。いずれの集団訴訟においても、勧誘会社及びその従業員・役員・実質的経営者、不動産会社及びその役員、購入資金の融資を行っていた銀行を被告として訴訟提起しました。
     2つの個別訴訟に関しても判決が確定していますが、ここでは、集団1次訴訟控訴審判決と集団2次訴訟第一審判決を紹介します。なお、集団1次訴訟控訴審判決は既に確定しています。集団2次訴訟に関しては控訴審が、集団3次訴訟に関しては第一審が係属中です。
  2. 集団1次訴訟控訴審判決(東京高裁令和3年7月28日判決)
     原告・被告など29名の尋問を経て出された第一審判決も、勧誘の違法性と、関与者の責任を広く肯定してくれていたのですが、集団1次訴訟控訴審判決では、原告11名全員に対する勧誘の違法性が肯定されました。また、勧誘者だけでなく勧誘会社役員・実質的経営者、販売会社役員、販売会社の責任も肯定されました(ただし、一部の販売会社役員、融資金融機関については責任が認められませんでした)。
     具体的には、当該判決は「勧誘者が、意思決定者に対して恋愛感情を有しておらず、同人との結婚ないし結婚に発展し得る交際をする意思もないのに、意思決定者をして自己に対する恋愛感情や、結婚ないし結婚に発展し得る交際への期待を生じさせて行為の結果の影響を十分吟味し得ない心情にさせて意思決定させることを主たる目的として、それらを秘した上で、同心情を持つような状況を作出し、同心情を利用して意思決定をさせる場合には、」社会通念上相当な範囲を逸脱するとし、一審敗訴原告を含む全ての一審原告に対する勧誘の違法性を認めました。また、勧誘がなければ売買契約の締結がなかったことを指摘し、財産的損害について相当因果関係を有する損害と認めました(ただし、各物件の価格相当額等の損益相殺を認めました)。
     そして、勧誘会社の実質的経営者だけでなく、勧誘行為には直接関与していない販売会社及びその役員に関しても責任が肯定されました。なお、過失相殺はありません。
     
  3. 集団2次訴訟第1審判決(東京地裁令和3年3月17日判決)
     原告・被告など38名の尋問を経て出された集団2次訴訟第1審判決でも、 原告12名全員に対する勧誘の違法性が肯定されました。
     そして、勧誘者だけでなく勧誘会社役員・実質的経営者、販売会社及びその役員の責任も認められました(ただし、関与の低い一部の被告と融資金融機関については責任が認められませんでした)。
     
  4. 両判決の評価について
     上記の両判決は、集団1次訴訟第一審判決とともに、膨大な証拠を丹念に拾い、勧誘の違法性を肯定するとともに、関与者の広く責任を認めました。なお、当弁護団が把握している限りでは、婚活サイトを利用した投資用マンション商法について、勧誘会社の実質的経営者や販売会社の責任を認めたのは、集団1次訴訟第一審判決が初めてです。
     そして、上記の両判決は、デート商法的な勧誘が用いられた場合の勧誘の違法性判断の規範を定立しており、今後の同種事例の解決の際にも参考になるものといえます。特に、平成30年改正で創設された人間関係の濫用に関する取消権(消費者契約法4条3項4号)の要件は相当に限定されていますが、当該要件を充足せず取消が認められない事案でも別途不法行為が成立しうることは、上記の両判決からしても明らかであり、その点でも意義が大きいです。
     次に、集団1次訴訟第一審判決のほか、上記の両判決は、不動産会社役員や勧誘会社の実質的経営者についても勧誘者との共謀を認めて共同不法行為責任を肯定しており、別業者に勧誘を委託する者やいわゆる黒幕の責任に関する判断として別事案の解決の際にも参考になると思われます。

 説明義務違反事案について

  1. 事案
     不動産購入や投資の経験がなく自己資金も乏しかった高校教師(原告)が、不動産業者(被告)から投資用マンション購入の勧誘を受け、マンション合計2部屋を購入させられた事案で、不動産の勧誘・販売会社に対して損害賠償請求した事案です。
     
  2. 判示内容
     第一審判決(東京地裁平成31年4月17日判決)、控訴審判決(東京高裁令和元年9月26日判決)ともに、勧誘について説明義務違反を認めました。
     控訴審判決の判示を紹介すると、「上記のような属性を有する一審原告に対し、多額のローンを負担させて2000万円超のマンション投資を勧誘する従業員は、少なくともマンション投資についての空室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスク等をわかりやすく説明すべき注意義務を負っていた」と判示しました。その上で、マンション投資のメリット(年金対策や税金対策等)のみを強調し、実際には様々なリスクがあるのに具体的に説明せず、むしろ原告がこれらのリスクを理解していないことを認識しながら、リスクを無視したシミュレーションを示し、原告の誤信に基づいて購入させたなどとして、説明義務違反を肯定しました。
     また、上記訴訟の原告が、各売買契約の際に「告知書兼確認書」というリスクが抽象的に記載された書面に署名・押印をさせられていたにもかかわらず、第一審判決・控訴審判決ともに、「リスクを説明していた」旨の業者側の主張を排斥している点も重要です。例えば、控訴審判決は、原告がその記載内容を十分理解しておらず、署名押印したことも認識していなかったと認定して業者側の主張を排斥しています。
     なお、第一審判決、控訴審判決ともに、4割の過失相殺を行っています。
     
  3. 評価
       マンションを「投資用」として勧誘・販売する以上、「投資」に伴うメリットだけでなく、投資に伴う支出(コスト)やリスク等も説明すべきと考えられますが、現実には、メリットばかり強調して、支出やリスクを十分に説明していない案件が多数見られます。上記の両判決は、原告の属性も踏まえた上でリスクに関する説明義務とその違反を肯定しており、上記のような説明義務違反事案における勧誘の違法性判断に関してとても参考になるものです。なお、当弁護団が把握している限りでは、投資用マンション勧誘に関して、説明義務違反を認めたのは、上記の第一審判決が初めてです。
     次に、業者が実際にはリスク説明を行っていないのに、リスク説明を行ったかのような確認書面に署名押印をさせ、あたかもリスク説明を行ったかのような形跡・証拠を残している事案が多く見られます。しかも、業者は、たくさんの書類を並べ、購入者に各書面の内容を十分に確認させないままに署名・押印をさせている事例も多いです。このような確認書面に関して、上記の第一審判決・控訴審判決ともに、原告が記載内容への理解や署名押印への認識も欠いていた旨を認定するなどして業者側の主張を排斥しておりますが、業者側の不合理な主張に惑わされずに正当な事実認定・評価をしており、この点でも同種事案の参考になると思います。

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アクト法律事務所
平澤 慎一

※電話での被害相談は行っていません。

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