消費者委員会成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書案に対する意見(平成28年12月30日)

内閣府 消費者委員会

委員長 河 上 正 二  殿

平成28年12月30日

消費者委員会成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書案

に対する意見

クレジット・リース被害対策弁護団

団長  弁護士  瀬  戸  和  宏

当弁護団は、与信を伴う消費者被害を多数扱ってきた経験を踏まえ、平成28年12月27日開催の貴委員会・成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ(以下、「貴WG」と言います。)にて配布された報告書案(以下「報告書案」と言います。)について、以下のとおり、意見を述べます。

なお、当弁護団の民法の成年年齢の引下げについての意見は別紙「民法の成年年齢を18歳に引下げることに反対する意見書」を参照してください。

1 報告書案の方向性について

当弁護団は、WGが多方面の関係者から丁寧にヒヤリングを重ねたうえで、若年者の消費者被害の実態を踏まえ、民法の成年年齢引下げに伴う望ましい対応策として、①消費者被害の防止・救済のための制度整備、②処分等の執行強化、③消費者教育の充実、④消費者被害対応の充実、⑤事業者の自主的取組の促進を掲げて論ずるという方向性を打ち出されたことを支持します。

民法の成年年齢を引下げにより18歳・19歳の若年者が未成年取消権を失えば消費者被害が拡大することは確実であり、また22歳くらいまでの若年者も知識や社会経験に乏しく判断能力が十分でないことから、これらの若年者に対する十分な保護施策が必要なことは明らかであり、報告書案がそのような視点に立った施策について具体的かつ詳細に論じていることに強く賛同するものです。

2 更に求められる制度整備について

当弁護団は、上記のとおり報告書案の方向性に賛同したうえで、若年者の与信を伴う消費者被害案件を数多く扱ってきた立場から、既に報告書案で掲げられている消費者契約法におけるいわゆるつけ込み型不法勧誘に対する取消権に併せて、更に実効的な被害の救済・防止のため、少なくとも以下の制度が必要であり、これらについても報告書に記載されるべきと考えます。

(1)特定商取引法について

① 行政処分の対象行為について

「若年成人の判断力の不足に乗じて契約を締結させる行為」を連鎖販売取引、訪問販売に限定することなく、他の取引類型(電話勧誘販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入)において、指示対象行為及び行政処分対象行為とすること

② そのうえで、指示対象行為に違反して勧誘した契約について取消権を認めこと

③ クーリング・オフ期間を延長すること

(2)与信行為について

① クレジットの若年者に対する資力要件と審査の強化

調査を簡易あるいは不要とする場合の与信枠の制限

② 貸金の若年者に対する資力要件と審査の強化

調査を簡易あるいは不要とする場合の与信額の制限

なお、対象を消費者金融業者に限定するものではありません。

3 周知期間および施行時期について

(1)ところで、報告書案では、12月20日の貴WGで配布された報告書素案(以下「報告書素案」)にはなかった「はじめに」が追加され、報告書素案の第2・7の「改正民法施行に関する配慮」の項目が削除されました。

そして、「はじめに」において、①十分な消費者教育がされるまでの準備期間の確保と②消費者被害の防止・救済のためのその他の措置が実施されるために必要な期間の確保が掲げられる一方で、「制度整備」には「国民的コンセンサス」を得た上で検討が進められることを期待したいとし、特に消費者契約法および特定商取引法に関わる「制度整備」については「国民的コンセンサスが得られておらず、その点を踏まえて取り扱う必要がある。」とされています。

上記の報告書案の表現では、民法の成年年齢引き下げを前提としたうえで、それに対する対策としての「制度整備」を行うについて「国民的コンセンサス」が必要であるような表現になってしまっています。

(2)しかし、平成21年10月の法制審議会最終報告書(以下「最終報告書」)の内容からして、上記表現は本末転倒となっていると言わざるを得ません。

最終報告書は、民法の成年年齢を18歳に引き下げることを適当としながらも、「ただし、現時点で引下げを行うと、消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそれがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。」とし、「民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については、関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識を踏まえた、国会の判断に委ねるのが相当である。」としています。そして、最終報告書の文中でも消費者保護施策の充実の具体策として、判断力不足に乗じた取引についての取消権などが挙げられています。

要するに、最終報告書は、施策の実現を前提に、施策の効果の国民への浸透(国民の意識への浸透)を踏まえて、国会の判断により引下げを行うとしているのであり、施策についての「国民的コンセンサス」ではなく、施策が十分になされたので引き下げても良いという「国民的コンセンサス」が必要であると述べているのです。

世論調査を見ても、国民の多くは成年年齢引き下げについて賛成していない実情であり、成年年齢引下げを前提として、「制度整備」に「国民的コンセンサス」を必要とすることはまさに本末転倒だと考えます。

(3)以上からして、貴WGの報告書においては、①十分な消費者教育がされるまでの準備期間の確保と②消費者被害の防止・救済のためのその他の措置が実施されるために必要な期間の確保を前提とし、それを踏まえて成立後少なくとも5年間の周知期間を設けることが明記されるべきと考えます。

4 「若年成人」(18歳~22歳)の取扱について

なお、報告書案では、18歳~22歳までの若年者を「若年成人」として施策を提言することについても、「国民的コンセンサス」が得られていないためその点を踏まえて取り扱う必要があるとしています。

しかし、貴WGがこの間、若年者の消費者被害とその対策について関係者から広く丁寧に意見聴取をしてきた中で、成年年齢引下げにより新たに成年となってしまう18歳・19歳に限らず、22歳くらいまでの若年者も社会経験に乏しく判断能力が十分でないことは共通であり、施策の必要性が認識できたことは事実であり、貴重な社会的財産であると言えます。

従って、今回の貴WGの調査結果として報告書の中に施策の必要性を明記することは、何ら問題はなく、むしろ必要であると考えます。

5 結び

民法の成年年齢引下げは、我が国に長い年月に亘って広く深く根付いてきた社会的制度を変革するものであり、その変革についての弊害への対処は十二分に行われなければなりません。

若年者の消費者被害事件を直接目にしている当弁護団としては、引下げにより消費者被害が生じてから施策を検討しても遅いと考えており、そのためにもWGにおいて十分な施策を提言して頂くことを期待します。

以  上

添付書類

 平成28年11月1日付 当弁護団の

「民法の成年年齢を18歳に引き下げることに反対する意見書」

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