債権譲渡型割賦販売についての意見書(平成29年10月25日)
意見書
平成29年10月25日
経済産業省商務情報政策局商取引監督課 御中
消費者庁 取引対策課 御中
クレジット・リース被害対策弁護団
団 長 弁護士 瀬戸和宏
第1 意見の趣旨
ファクタリングその他の名称を問わず,特定の販売業者または役務提供事業者との間の当該販売業者または当該役務提供事業者の顧客に販売する商品や指定権利,あるいは顧客に提供する役務の割賦販売代金債権を譲り受ける旨の基本合意に基づき,当該販売業者や当該役務提供事業者から割賦販売代金債権を買い取り,顧客に対し,譲り受けた割賦販売代金債権の支払を求める業者について,以下のような処置をするよう求める。
1 上記のような仕組みで債権譲渡を受けることが,割賦販売法第2条第4項の「個別信用購入あっせん」に該当することを「割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針」「割賦販売法の解説」などにおいて明らかにし,周知すること。
2 上記のような仕組みで債権譲渡を受ける者が,割賦販売法第35条の3の23の登録を受けていない場合には,
(1)無登録営業として,適正な措置をとること。
(2)同法第49条第3号に該当するものとして,捜査当局に対して通知・告発すること。
第2 意見の理由
1 当弁護団について
当弁護団は,平成17年に,過剰与信被害対策弁護団という名称で,東京3弁護士会の主に消費者問題を取り扱う有志弁護士を中心に結成された弁護団で,その後現在のクレジット・リース被害対策弁護団と改称したものである。クレジット会社やリース会社による消費者や個人事業主,小規模事業者に対する過剰与信被害の救済にあたることを目的として活動している。
2 問題とする取引の仕組みと被害の実情
(1)取引の仕組み
当弁護団が取り扱う事件の中で,近時,本意見書で問題とする以下のとおりの債権譲渡(「ファクタリング」)を利用した与信システムを用いる被害事件が多数発生している。
「ファクタリング」を利用した与信システムとは,次のような仕組みである。なお,以下,この仕組みを「ファクタリング方式与信」といい,「ファクタリング方式与信」で債権譲渡を受ける業者を「ファクタリング方式与信業者」と呼ぶこととする。また,販売業者及び役務提供事業者を合わせて「販売業者等」という。
① ファクタリング方式与信業者と販売業者等とは,予め,販売業者等の顧客に対する割賦販売代金債権を,ファクタリング形式与信業者が額面の一定割合の価格で買い受ける包括的な債権譲渡契約を締結する。
② 販売業者等は顧客との間で,割賦販売契約を締結する。
③ 販売業者等は,ファクタリング方式与信業者に対し,顧客に対する割賦販売代金債権を譲渡し,譲渡代金を受け取る。
④ 顧客が販売業者等との間で結ぶ割賦販売契約書には,不動文字で,顧客は,販売業者等が顧客に対して取得した割賦販売代金債権を譲渡することを予め異議なく承諾する旨の条項が記載されている。
しかし,同書面には,当該ファクタリング方式与信業者が譲受人となることは明記されていない。
⑤ ファクタリング方式与信業者は,譲り受けた割賦販売代金債権について,顧客から支払いを受ける。
⑥ 上記の仕組み中で,ファクタリング与信業者のほかに,顧客の信用情報を調査するため,信用情報機関に加盟している他の与信業者が関与し,顧客の信用情報機関の登録情報を調査し,与信を可と判断することが,ファクタリング与信業者が割賦販売代金債権を買い受ける条件となっている場合がある。
あるいは,ファクタリング与信業者または同者から委託を受けたものが,顧客に対し,割賦販売契約の成立の有無やその適正を確認できたものを買い受ける条件とする場合もある。
いずれの条件も,クレジット会社が顧客の信用を調査したり,割賦販売契約について調査し,与信の適否を判断する場合と何ら異ならない。
(2)発生しているトラブル
上記の仕組みで債権譲渡された後,販売業者等と顧客との間でトラブルが生じて顧客が支払いを拒否すると,ファクタリング方式与信業者から請求を受ける。ファクタリング方式与信業者は,本件は個別信用購入あっせんではないので抗弁対抗や取消しは認められていないこと,また債権譲渡について「異議なき承諾」がされていることをもって,顧客の販売業者等に対して有する抗弁の主張を認めない。
(3)悪質業者を助長すること
ファクタリング方式与信業者は,自らを個別信用購入あっせんではないと考えており,また,予めした異議を留めない承諾の効果として,顧客が販売業者等に対して有するどのような抗弁を主張しようとも無関係だと考えているため,販売業者等の営業体制やその内容につき調査をするという考えに乏しい。
それ故,販売業者等は,登録を義務付けられている個別信用購入あっせん業者と加盟店契約を締結できないなどの事情があれば,調査・審査の緩いファクタリング方式与信業者を使うことになる。調査や審査が緩い結果,販売業者等の悪質商法の展開を許すことになる。
4 個別信用購入あっせん該当性
(1)このファクタリング方式与信業者の行為は,「カード等を利用することなく,特定の販売業者等が行う購入者への商品若しくは指定権利の販売又は特定の役務提供事業者が行う役務の提供を条件として,当該商品若しくは当該指定権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部に相当する金額の当該販売業者又は当該役務提供事業者への交付(当該販売業者又は当該役務提供事業者以外の者を通じた当該販売業者又は当該役務提供事業者への交付を含む。)をするとともに,当該購入者又は当該役務の提供を受ける者からあらかじめ定められた時期までに当該金額を受領すること(当該購入者又は当該役務の提供を受ける者が当該販売業者から商品若しくは指定権利を購入する契約を締結し,又は当該役務提供事業者から役務の提供を受ける契約を締結した時から二月を超えない範囲内においてあらかじめ定められた時期までに受領することを除く。)」にあたり,「個別信用購入あっせん」に該当する(割賦販売法第2条4項)。
(2)否定する意見
このファクタリング方式与信については,個別信用購入あっせん該当性を否定する意見がある。すなわち,個別信用購入あっせんでは通常,あっせん業者と顧客らとの間に個別信用購入あっせん関係受領契約(割賦販売法第35条の3の3第1項,同35条の3の4,同5条の3の7,同35条の3の10)が存在するところ,ファクタリング方式与信業者と顧客との間には,個別信用購入あっせん関係受領契約が締結されていないので,ファクタリング業者は,個別信用購入あっせん業者に該当しないとするもので,その主張に沿う裁判例(東京地方裁判所平成26年10月3日判例タイムス1413号279頁)もある。
(3)否定意見に対する反論
しかしながら,個別信用購入あっせん関係受領契約の存在は,割賦販売法第2条第4項の個別信用購入あっせんの定義には含まれておらず,ファクタリング方式与信業者が個別信用購入あっせん業者であることを何ら妨げるものではない。
また,もし,この個別信用購入あっせん関係受領契約の存在を要件としてしまうと,割賦販売法の適用を免れるために敢えてこの契約を結ばずにいる業者には規制が及ばないことになり,悪質商法に手を貸す与信を防止するという平成20年の法改正の目的が達成されない。
(4)小括
従って,上記のファクタリング方式与信業者は,割賦販売法の適用を受ける個別信用購入あっせん業者に該当し,個別信用購入あっせん業者登録簿に登録をしなければならず(同法第35条の3の23),同法が定める抗弁の接続を甘受し,様々な義務,たとえば加盟店調査義務(同法35条の3の5)なども負担することになる。
5 結論
悪質な販売業者等は,審査の厳しい登録した個別信用購入あっせん業者の加盟店となることを避け,法の規制外と考えているファクタリング方式与信業者を利用しようとし,また,ファクタリング方式与信業者も自らを法の規制外の存在と考えて,悪質な販売業者等と提携することにより個別信用購入あっせん業者では得られない高率の利益を得ることができる仕組みとなっている。
これらファクタリング与信方式について,速やかに実態調査をし,意見の趣旨のとおり,個別信用購入あっせんに該当することを確認され,しかるべき措置をとられたい。
以上
参考資料
その1
東京地方裁判所平成26年10月3日判決(判例タイムス1413号279頁)及び控訴審(東京高等裁判所平成26年(ネ)第5548号事件)において提出された資料
(関係図)
(一審で提出された資料)
①割賦販売契約書一式 債権譲渡会社-顧客
②債権譲渡基本契約書 A3-C3
③債権譲渡基本契約に関する覚書 A3-C3
(二審で提出された資料)
④業務委託契約書(保証会社による信用保証付)A3-C1
⑤覚書(保証会社との間の信用保証基本契約付)A3-C1
⑥業務委託契約書(保証委託契約付) C1-B
⑦覚書(保証委託契約付) C1-B
⑧信用保証基本契約書 A3-B
※ 債権譲受会社は、当初はC1、途中からC3に変更となった。C1とC3は、代表者、事務所所在地を同一とする会社。
その2
現在進行中の事件(債権譲受会社=D)
aファクタリング取引契約書
b覚書
c自社割賦加盟店申込書
d割賦販売契約書(販売会社用)
e契約実行明細書
f登記事項証明書(概要事項、債権個別事項)